美育文化ポケット 第41号 発刊しました。

第41号 2024 Spring

目次 contents


1 感動の表現、それを共有する喜びは赤ちゃんのときから 木下 勇

2 pocket meeting in tokyo
クリエイティブな保育がつなぐこども・おとな・地域
妹尾正教さん(社会福祉法人 仁慈保幼園 理事長)

curriculum design
カリキュラム・デザイン29
特集春をあそぶ
―出会いと安定 10
槇 英子+馬場千晶+秋山道広

18 curriculum design
こどもと先生のおどうぐばこ

19 自分の中の「こども」を取り戻す研修レシピ

20 biiku-navi report 美育NAVI訪問レポート35
授業を通して学び合う「つながり部会」とは?
──北海道造形教育連盟の研修会より
ナビゲーター:大橋 功、秋山道広

27 art in life
「表紙はこどもたちの遊びの動画のひとコマ」
馬場千晶

28 連載 Arts in LIFE①
0歳児がアートする 磯部錦司

30 連載 アート in SPACE⑯
光華小学校(東京都) 渡邉裕樹

32 連載 こどもなーとのクロストーク「アート×保育」①
「アトリエリスタがいる保育」で知ること 
力安有也芳 和泉 誠

34 practice 実践ポケット
【保育園】こどもの学びを支える文化 菊地みぎわ
36【小学校】ハロー!マイ・ミュージアム 菊地惟史
38【 保育者養成校】「ハピフェス おねえさんせんせいとあそぼう」
学園祭~幼稚園でのワークショップ実施体験
甲田美香

40 exploration in to the art of infants
連載 幼児造形の森㉕最終回
「感覚すること」を「社会」と架橋する 水島尚喜

41 beautiful and pleasant things for children and us
連載 うつくしいこと たのしいこと⑨
「“そめる”こと」(その2) 佐藤賢司

42 drawing&painting こどもの絵を聴く
42 【幼児の部】香月欣浩 43 【小学生の部】 岡 照幸

44 Q&A 連載 こどもが育つ造形Q&A
羽溪 了+坂本 晶
裏表紙 僕がみつけた、アートに現れる娘の世界⑤
「はじめての手作りゲーム」 鈴木 純

クリエイティブな保育がつなぐ こども・おとな・地域

pocket meeting ポケットミーティング in 東京 at 聖心女子大学 2023.12.23


創刊10周年を迎える美育文化ポケット。記念すべき今回のメインゲストは妹尾正教先生。
粘り強く培ってきた、大人とこどもをつなぐ地域に開かれた保育”のお話を伺います。

妹尾正教さん 社会福祉法人仁慈保幼園 理事長

せのお まさのり
アマチュアミュージシャンとしてヨーロッパ各国をめぐる旅を経て保育者となり、保育の現場に入る。
2001年 鳥取県米子市仁慈保育園 園長就任
2002年 同法人理事長就任 
2014年 多摩川保育園(大田区)園長就任
2020年 世田谷代田仁慈保幼園 園長就任
現在 同法人理事長 兼 統括園長
著書:『非認知能力をはぐくむ 仁慈保幼園の環境づくり』Gakken保育Books
社会福祉法人仁慈保幼園ホームページ:https://www.jinji.educare.tokyo/

 

答えは教室の中だけにあるのではない。知りたい気持ちが学びのフィールドを広げる

 社会福祉法人仁慈保幼園には、現在4 つの保育施設があります。始まりは1927年、昭和2 年に鳥取県米子市で開いた託児所からスタートしました。100年近い歴史がありますが、2002年に保育方針を大きく変化させました。認定こども園になった米子市の園のほか、東京の大田区に1 園、世田谷区に2 園の保育園を開きました。今日は「表現することは人生をつくること」という前提で話をしていきます。
 私がいつも職員と話すのは、「答えは教室の中だけにあるのではない」ということです。こどもたちの「知りたい」という欲求を、こどもたち自身で探究し続け、学びのフィールドを広げていくためには、保護者も含めた大人と地域がこどもの思いに関わっていくことがとても大事だと、私は思っています。
 ちょっと昔の話になるのですが、あるクラスで、たまたまこどもと担任の保育者が同じ時期に骨折しました。1クラスの中で二人もギプスをしている状況になったんですね。
 するとこどもたちの興味が、「身体の中ってどうなっているの?」という方向に向きました。内発的動機など、いろいろな言い方がありますが、「不思議だな」と思うところから、学びは始まります。「骨ってなに?」「身体の中、知りたい!」とこどもたちが思い始めました。

人の存在だけでは不足。こどもの気持ちに合わせて、環境も広げていく

 こどもたちの「知りたい気持ち(学びのきっかけ)」を私たち大人がちゃんと受けとめなければ、学びにつながりません。また、「どうなっているの?」と聞かれて、本などを見せて、「ほら、こんなふうになっているよ」と言ってしまうことは簡単ですが、それでは学びの広がりは望めないのです。
 こどもの「知りたい気持ち」に向き合うには、こどもと関わる人の存在だけでなく、こどもの関心の移り変わりに合わせて、環境も広げていくことが、とても重要となります。
 その頃、保育室にはさまざまなモノが登場しました。聴診器や、めくっていくと筋肉、内臓、骨などが現れる多層木製パズル、ガイコツ人形。さらに、成人の等身大のレントゲン写真をアメリカの通販で見つけ、それも取り寄せました。普通の保育環境にはないようなものばかり(笑)。ですが、学びに結びつくと思われるものは何でも取り入れていくのが大事かなと思うのです。
 パーツごとにバラバラに分かれて届いた骨のレントゲン写真を、こどもたちはパズルのように組み合わせて、骨の全身像ができあがりました。するとある子が、「これ、男と女、どっちの骨かな?」と疑問を持ったのです。
 そのクラスには大学病院の助産師の保護者がいたので、夕方のお迎えのときに尋ねてみようという話になりました。
 みんなが待ちかねたお迎えの時間、その助産師さんの答えは、「この骨は女の人の骨よ」というものでした。
「えっ?どこを見たらわかるの?」「それはね、ここに骨盤という骨があるの。みんなは生まれてくる前、お母さんのおなかにいたときに、この骨の上に座っていたのよ」と説明してくれたのです。疑問が解けて、こどもたちはとっても満足げな表情でした。

表現することは、人生をつくること。


…続きは本誌で

春をあそぶ ―出会いと安定

 春は出会いの季節。草花の芽吹きが景色に彩りを運ぶ。新たなクラスで人と出会い、大きくなった自分とも出会う。そんな出会いがこどもたちに届けるのは喜びとゆらぎ。だから春のテーマは、安心して自分を表し出す土壌作り。
 カリキュラムは、こどもと大人の思いの追いかけっこ。「こうしたい」と「こうしたら」の対話から「これから」が生まれてくる。2つの思いが絡み合いながら進むカリキュラムが、こども自身の育ちたい衝動に応じているか、こどもの内側に耳を傾けながら明日の保育・教育を構想するのがわたしたち。
 わたしたちの指針となるのは法令やテキストだけなのでしょうか。春に始まり、また春を迎える一年間を区切りとしている背景には「季節」、すなわち自然の営みがあります。わたしたちは自然の一部であり、その育ちはしばしば植物に例えられます。芽が出ること、根が張ること、花開くこと、実を結ぶことなど、さまざまな姿を人生に重ねています。そして樹木は、季節が巡る一年を年輪に刻んで太く大きく育っていき、その年輪が樹木を強くしています。
 この春から、カリキュラムを季節と重ねる試みをします。それは、季節の行事に追われ、カレンダーのように過ぎ去っていくカリキュラムではありません。こどもたちの内的な季節に応じ、生涯にわたる育ちを支える年輪となるカリキュラムを一緒にデザインしていきましょう。

槇 英子+馬場千晶+秋山道広
TEXT BY MAKI HIDEKO/淑徳大学 教授(P11),
BABA CHIAKI /昭和学院短期大学 助教(P12-13,16,18-19),
AKIYAMA MICHIHIRO/芦屋市立精道小学校 教諭(P14-15,17-18)
写真協力/大和東もみじの森保育園(P10-13,16)、
芦屋市立精道小学校(P14-15,17-18)


…続きは本誌で


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