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2011 7月号






特集 今、私たちにできること

 3・11からまもなく100日が経過する。

  編集部では5月21日から23日まで、石巻、気仙沼、相馬の被災地を取材した。その第一の印象は、今回の震災の甚大な影響を目の当たりにした驚きであり、この災害が人々の生活を破壊した深刻さだった。そして二番目は、それが外見上にしても、被災地が逞しく復興に向けて歩みはじめているという実感だった。

  以上の二つの印象は、表面的には矛盾するが一体のものだった。だが、これに対して、福島原発の事故により現在も継続しているクライシスはまったく異質の事態であろう。この点に関して本誌編集部の取材は及んでおらず、今号では小野浩司氏(福島市立大島小学校教諭)に日録的な報告を依頼するに留まった。

 なぜ、美術教育雑誌が震災特集を企てたのかについて説明する必要があるだろう。その理由は概ね以下の3点だった。

まず第一に、今回の震災について、被災者の生活再建や経済復興の視点だけではなく、この国の文化的課題として捉える必要があること。

第二に、災害は社会的弱者としての子どもにこそ、大きな影響があると考えられること。放射能被害はその最もわかりやすい実例だろう。

第三に、震災からの復興や人々の心の回復に際して、造形・美術教育に多大な期待が感じられたこと。各地の避難所などで、アート・イベントや造形的なワークショップなどを行う動きが比較的早く起こったのはその表われと推測される。

 このうち、第一の仮題である震災の文化的影響に関しては、「東北学」を掲げ、東北文化の独自性と多様性について探求されてきた赤坂憲雄氏(民俗学者・福島県立博物館)より示唆を得られると考えた。

第二の問題については、石巻市で独自の絵画教室を主宰されており、津波の被害に遭われた新妻健悦、悦子夫妻に被災した子どもたちの精神状態についてうかがいたいと思った。

第三の地域に期待されている造形・美術文化については、気仙沼市・リアス・アーク美術館の山内宏泰主任学芸員にお話し願いたいと考えた。

そして、被災地以外の造形・美術教育関係者に、現在の状況にいかに捉え、現場での実践的課題に繋げていくかという提案をお願いした。

 しかし、本誌を見ていただければわかるとおり、以上のラインナップから、それぞれのテーマに対応した回答が得られたわけではまったくなかった。元来、三点は便宜的なものに過ぎず、事態は編集部の安直な思惑をはるかに超えて錯綜しており、多面的、総合的だった。

 標題である「今、私たちにできること」は、前号において被災者に更なる負担をおかけした反省が込められている。

けれども、この号の編集を通じても「できること」の進路は、明確には示し切れなかった。

取材をし、この号を編む過程で、私たちができたことは、被災地や東北の文化のほんのいくばくかに触れえたことだった。それは言い方を換えるなら「被災者や被災地に学ぶ」ことであったのかもしれない。

7月号 美育インタビュー

福島県立博物館館長・民俗学者 赤坂憲雄さん
 今回の原発事故で、これまで大変な不安を抱えながら、そして、結果的には、甚大な犠牲を払いつつ、福島が東京に電力を送り続け、日本の経済を支えてきたことが、ハッキリ見えてしまった。私たちは、ではなぜ、東北はそういう地位に甘んじてしまったのか、ということを改めて問い直す必要があります。そのために私はもう一度「東北学」というものを再建しなければならないと思いました。被災地を見て、そのことを痛感しました。…続きは本誌で


美術教育ルポ  東日本大震災被災地レポート

 3・11からすでに2カ月余りが経過した5月21日、編集部は被災地へ車で向かった。
同行は都図研前会長の辻政博さん、22日夜には、別行動の水島尚喜さん(聖心女子大学)と現地で合流することになっていた。
首都圏から仙台までは車でおおよそ3時間、平日だったこともあり、東北自動車道は意外なほど順調に走ることができたが、仙台に近付くにつれ、ところどころに路面を補修した跡があり、スピードを出し過ぎると、タイヤが弾んでしてしまいそうなところがあった。 様相が一変したのは石巻インターで高速度道路を降り市内に向けて10分ほど行った時だった。道の両側に樹木や建築物などの瓦礫が押し分けられていた。いよいよ被災地に来てしまった。

子どもART学

表紙:
第41回世界児童画展
海外の部・金賞受賞作品
“水泳”
ラウラ・スージー 9歳女
ハンガリー

表紙

裏表紙:
第41回世界児童画展
国内の部・ぺんてる賞受賞作品
“きもちいいシャワー”
小柳 信哉 
青森・新潟市立上山小学校 1年男

裏表紙

 

目次

特集 今、私たちにできること

美育インタビュー 福島県立博物館館長・民俗学者 赤坂 憲雄さん…7

美術教育ルポ 東日本大震災被災地レポート
被災地・石巻と気仙沼・リアス・アーク美術館 編集部(穴澤秀隆)…13
被災した小学校の児童が描いた未来の街…水島 尚喜…22
瓦礫から、再構築へ…辻  政博…24

新連載 図説 子どもART学 第1回 東日本大震災レポート…辻  政博…26

*取材協力:新妻健悦・新妻悦子(石巻市・アトリエ・コパン)、 山内宏泰(気仙沼市・リアス・アーク美術館)、倉本信之(相馬市・NPO法人ふれあいサポート館アトリエ)
*写真提供(P3、P18、P19):リアス・アーク美術館

■「Koi 鯉アートのぼり」にかけたメッセージ…渡邊 晃一…28
■「在るべきものの不在」という現実と向き合って…牧野 由理…36

■図工や美術で今できること…永関 和雄…40
■今、私たちに…高橋 香苗…42
■新たな時代を築き上げるために共有すべきこと…大橋  功…44
■3・11以降考えたことなど…三澤 一実…46
■「日常」を見据えた美術教育…上山  浩…48
■震災から4ヵ月…田中  晃…50
■美術の持つ力 繋がる力・内側に入る力…長尾 菊絵…52

授業研究●三重県
幼児 秘密基地遊びは、宝もの…池村智津子…54
小学校低学年 ヌルヌル ぺたぺた 大きな絵…村田 真理…56
小学校中学年 おすすめ標識…三輪 辰男…58
小学校高学年 ピッとくる一枚…元水 伸美…60
中学校 太陽のような存在…近藤 真純…62

連載 〈美術/教育〉の扉をひらく-新しい社会文化システムの中へ-
第11回 〈プロジェクト(前へ未来へ投げること)に参加する(場所を得る)こと〉と〈美術/教育〉(下)デザイン…長田 謙一…64

熊本文庫主要文献解題 美術教育論の変遷とその周辺26…70
穴澤秀隆+新関伸也+福本謹一+永守基樹+天形 健+山口喜雄

BOOKS 新刊紹介…一條 彰子…73
『造形ワークショップの広がり』 高橋 陽一 編著  高橋 陽一・齋 正弘、他著
●東日本大震災 復興日誌…小野 浩司…74
連 載 幼児のひろば 第31回 静岡・浜松市・都田保育園 園長 前田 弘子…6・81
NEWS 美育ニュース…77




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