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2008 5月号

特集 新・学習指導要領を読む

去る、3月28日、かねてより改訂作業が進められていた学習指導要領が告示されました。

今回の改訂は、99年以来、9年ぶり、戦後7度目となるものですが、全体を見渡したかぎり、その子ども主体の教育をいっそう進めるという従来の理念には、基本的には変更はないように見受けられます。

そもそも教育の目標は教育基本法にあるように、「人格の完成」と「国家社会の形成者の育成」の2点であり、これは変わらないところでしょう。教育基本法でもその目標が明示されていますが、そこでは、これを他者、社会、自然・環境、文化という広がりで捉えています。さらに学校教育法では、
①知識や技能の習得、
②これを活用し課題を解決する自ら学ぶ力、
③これらを支える学習意欲が学力、として示されました。
これはある意味で「生きる力」の学力面が条文化されたことになります。また、去る1月の中央教育審議会の答申では、個人と他者、社会、自然・環境の関係性や、「閉じられた個」ではなく「開かれた個」ということが再三語られていました。

今回の学習指導要領の改訂は、以上のような理念を反映し、教育現場での手だてを示したものであり、図画工作・美術科においては、「A表現」「B鑑賞」の整理が、かなり緻密に行われたという印象を受けます。これを進めるため、「A表現」「B鑑賞」から、「形や色、イメージ(小中)」と「材料用具(小)」「表現方法(中)」がそれぞれ、共通事項と内容の取扱いに移動されていることが目につきます。

例えば、小学校図工の現行のA表現(2)の「表したいことに合わせて、粘土、厚紙、クレヨン、パス、はさみ、のり、簡単な小刀類などの身近な材料や扱いやすい用具を手を働かせて使い、絵や立体に表したり、つくりたいものをつくったりすること。」という部分は、「表したいことに合わせて手を働かせて表す」という目標の表示に留められ、そのための表現方法や材料用具については、共通事項と内容の取扱いにまとめられました。

個々の事項に関して言えば、まず、小学校の目標に「感性」という言葉がが入ったことが注目されます。これは、中学校段階で言われてきた、「知性」を統合する能力としての感性という意味と同一であるのか、ちがうのか、今後の検討が必要と思われます。

また、造形遊びの扱いに関して、「造形遊びを通して、次の事項を指導する」となったことは、造形遊びを「領域」として捉えることを改めて否定しているように読めますが、そのように理解してよいのか、確認したいところです。

他方、一部に、図工に「伝え合いたいこと」が新たに加わったという報道もありました。しかし、これは従来も内容(2)にあった表現なので、別段、新しく追加されたものとも思えません。図工・美術教育は、かねてからコミュニケーション能力の育成をひとつの主眼としていたはずです。「鑑賞の時数が大幅に増える」というのも、同様の誤解かと思われます。鑑賞の内容を充実させることが、直ちに時間数に反映されるのか、確認が必要と思います。

以上のように、新しい学習指導要領について、多くの解釈と多様な反響が予測されます。そこで小誌では、新・学習指導要領を精読し、その趣旨を検討し、実践への展望を見いだしたいと思います。



5月号 座談会  新・学習指導要領を生かすために


●藤澤英昭 今回の改訂は、ご承知の通り、中央教育審議会の答申に沿って行われたものであり、他方、教育再生会議の動向もありました。また、その他にも多くの教育論議があったわけで、言わば、そういう様々な流れの集大成としてまとめられたと考えてよいと思います。

◎水島尚喜 日本の子どもたちにいかにして国際人として通用する学力や能力を身につけるのか、あるいは、日本の教育は子どもにとって幸せなものであるのかという観点が改訂論議のひとつの核になっていたのではないかと思います。

○奥村高明 この10年のうちに急激なパラダイム転換があり、社会や子どもたちを取り巻く環境が激変しました。そして教育基本法が改正され、これからの教育の理念が定められました。さらに学校教育法では「学力」ということが、「基礎的な知識及び技能の習得」と「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力や判断力、表現力、その他の能力」そして「それを支える学習意欲」という三つに整理されました。これは、ある意味では「生きる力」の条文化ともいえることだと思います。同時に、これまでの知識や技能が学力なのかとか、自ら学ぶ力や思考力・判断力こそが学力なのかといった対立的なものではないことが規定されたわけです。

●村上尚徳 私たちは色や形に囲まれて生活しています。それが機能的に役立つかどうかという面だけでなく、それらを豊かに感じ取ることにより気持ちが楽しくなったり、そこに面白さを感じたりすることも含めて、子どもたちに美術や図工の学習が大事であることを示していく必要があります。

…続きは本誌で


表紙:
第38回世界児童画展
海外の部・金賞受賞作品
「ホームラン」トミー・コップル
アメリカ合衆国 10歳男

表紙

裏表紙:
第38回世界児童画展
国内の部・ぺんてる賞受賞作品
「じごくのシャワー」q橋 武航
千葉・市原市立清水谷小学校
小学校1年

裏表紙

 

目次

特集:新・学習指導要領を読む  

座談会  新・学習指導要領を生かすために
届けよう、現場へ、子どもたちへ。
奥村高明 文部科学省教科調査官(小学校)
村上尚徳 文部科学省教科調査官(中学校)
水島尚喜 聖心女子大学教授
藤澤英昭 千葉大学教授
奥村高明+村上尚徳+水島尚喜+藤澤英昭…7

私は、新・学習指導要領をこう読んだ

赤木里香子+阿部宏行+石賀直之+大坪圭輔+大橋 功+岡田京子+木村早苗+小泉 薫+佐久間三智子+鈴木陽子+鷹野 晃+立川泰史+辻 政博+永関和雄+長田謙一+中村一哉+西村行+橋本光明+原田康伸+東 弘治+東良雅人+福岡知子+松永かおり+松山 明+三澤一実+水野一英+宮坂元裕…16

現行学習指導要領、新・学習指導要領対照表
小学校図画工作編・中学校美術編…43

熊本文庫主要文献解題
美術教育論の変遷とその周辺15
橋新関伸也+春日明夫+山口喜雄+永守基樹+天形 健+藤澤英昭+柴田和豊+福本謹一…50 

授業研究 石川県  

幼児
こころとからだで感じる…中田 幸江…54 

小学校低学年  アランをさがそう!…和久田博子…56

小学校中学年 朝顔の種を届ける船をつくろう…滝川 美絵…58

小学校高学年 HEARTでART…福田満佐子…60

中学校  ダンボールアート「机は船である」…盛本 立子…62

●短期連載
現代に生きるプラグマティズムの復権を(上)
逆境をバネに、明日を拓く造形活動とコンピテンシー…浜本 昌宏…64

連 載 File 0039
computer now
ふしぎな生き物ストーリー…伴 泰輝…70

公募原稿 Power to the Art Education !(その3)…岡 田 匡史…72

連載 幼児のひろば 第20回

愛知・名古屋市
白水保育園園長
黒田 優…6、81

NEWS InSEAニュース…永守 基樹…75

美育ニュース…75




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