児童画の歴史は、さほどに古いものではありません。1885(明治18)年に、フランツ・チッゼック(Cizek; Franz)というオーストリアの画家志望の青年が、下宿をしていた ウィーンの指物職人の家で近所の子どもたちを相手にこれまでのアカデ ミックな絵画指導とは趣の異なる子ども本位の絵を教えはじめたのが、 今日の児童画の始まりのひとつであったと言われています。
そしてこの頃、チゼックは、「造形の創造的な衝動は人間の生の衝動の 一部であり、この本能的衝動は、すべての国民及び人類の利益と精神の 充実のために生かせるように、正しい発達を促進しなければならないも のである」という確信を得ます。
その後、彼はオーストリアの教育省に、子どものための絵画教室の設立 を認められ、児童画の指導を精力的に展開する一方、各地で児童画展の 開催に奔走します。そして当時、新しい美術思潮として注目されはじめ ていた、クリムト、エゴン・シーレ、オスカー・ココシュカなど、いわ ゆるウィーン分離派の展覧会である「クンストシャウ」の一部として児 童画の展示スペースを確保することになります。これが1908年、 ちょうど100年前の出来事でした。
つまり児童画は、生まれてから100年と少し、一般の人に関心を 持たれるようになってからは、ほぼ100年の歴史を持っているこ とになります。これは人類の歩みや、その中での培われてきた教育の営 みから考えると、浅く短い歴史であるように思われます。それは別の見方をすれば、造形活動による創造的な衝動が、人間の本質 的なものであり、豊かな人間形成のためには、適切な方法によって、こ の活動を善導する必要があることが理解されていなかったためでしょう。
世界児童画展は、今年で38回を迎えました。私ども主催者は、この展覧会が、児童画の歴史のほぼ3分の1を担って きたことに、責任と誇りを感じています。また、同時に、チゼックや ウィーン分離派の芸術家たちが、子どもたちの絵に、新しい時代の感覚 を感じていたことに注目したいと思っています。この展覧会を通じて、子どもの表現の中にある変わらぬ豊かさやぬくも りを大切にし育んでいくとともに、未来を切り拓いていく、しなやかな 感性が、育っていくことを願っています。
表紙作品: |
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裏表紙作品: |
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裏表紙題字:石井柏亭 |
特集:第38回世界児童画展
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