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2007 11月号

特集 わたしがいる工作

図画工作科という名称に示される通り、美術教育の製作活動は「絵画」と「立体」に大別されるというイメージは根強く残存しています。
これは平面とそれ以外という作品の物理的形状による分類という以外に、ほとんど根拠に乏しい区別と言えますが、この枠組みがすっかり浸透しているため、立体造形は独自の表現形式や内容を獲得しているかのように感じられます。

立体造形が平面表現に対して際立っている点は、物体としての立体を構成するマテリアルが不可欠であることでしょう。
絵画は平面に展開された行為の傷痕であるとも言えますが、ここでは「何を表現するか」という心象の問題が突出しています。このため「絵は作者の内面を描いたものである」という理解はごく一般的なものになっています。
これに対して、立体の場合は、「何によって表現するか」という素材の選択が「何を表現するか」というテーマや目的に優先される状況がしばしばあります。立体造形においては、素材の特性は、テーマに密接した重要な要素であるためと思われますが、それに注目するあまり、内的な発想や制作の意図や動機が見えにくくなることが懸念されます。

他方、原理的に言えば、地球上に存在する物質はすべて表現素材になりえます。ですから、立体造形の素材は物質の数だけあることになりますが、それは意外なほどに限定されているのが実情でしょう。
耐久性、加工・入手のし易さ、価格、安全性などから、木材、岩石・粘土、金属などが代表と言えます。これらが立体造形の根本的な「質」を決定・限定してきました。

ところで、近代美術におけるオブジェの発見は、このような立体表現の概念に大きな転換をもたらしました。すなわち、自然の中で培われてきたものや、商品経済の結果として産出された物体が、その本来のあり方や用途とは別の衝撃力をもち、さらには、それらの偶然、または意図的な出会いによって、思いもよらないイメージが創出されるという状況は、人間中心主義を基調としてきた旧来の芸術の概念を惑乱させるものとなりました。

ここでは、表現素材は、木、石、金属のような純粋の原料である必要はなく、生産財としての用途やイメージが付与されていることに特長があります。また、従来の造形素材に付着していた重さ、硬さ、不変性などに対して、軽さ、柔らかさ、形状の流動性などが、感覚的には対応しているように思われます。
このような「新しい素材」を用いることの意味は、これまで、頻用されてきた造形素材に固着していたイメージの一般性を解体し、代わって、個人の気分や個的な感性を作品に盛り込めることにあると思われます。すなわち、「新しい素材」を使用することにより、立体の表現を「わたしの世界」に引き寄せ、心象のメッセージを込めることが可能になるのではないでしょうか。

これまで、「工作・工芸」の学習においては、機能の追求や機構の理解、技術の習得と技能の訓練、作品の完成度などがやや過剰に求められてきたことが指摘されています。これは多くの場合、造形素材の扱い方の習得ということが、製作の基礎に位置づけられていたためと思われます。そもそも身の周りにある自然物やさまざまな素材に鋭敏に反応し、素朴な興味をもって、造形的な表現活動に取り組む子どもたちの姿には、「絵画」や「彫刻」といった文化概念は不要だったのかもしれません。

そこで、この号では、「わたしがいる工作」というテーマで、新しい造形素材を通して、子どもの思いを反映した立体の造形活動について考えてみたいと思います。



11月号 美育インタビュー

バルーンアーティスト 風船職人 SHINO さん
おっしゃるとおり「風船職人」というのは、風船を使って造形活動する人というくらいの意味です。職人というのは、本来は伝統的で高度な技術を持っている人のことだと思いますが、現代ではパフォーマンス性のある仕事というようにも理解されていると思います。そしてもうひとつは、仕事の中身とその人がしたいと思っていることが密着していることです。私がおこがましく職人と名乗っているのは、そちらの感覚がつよいかも知れません。

美術教育で言えば、いくつか創造性のパターンを列挙して、それぞれに対応したカリキュラムをつくっていけば、バランスのとれた構造になるのではないかと思います。そうすることにより、なかには評価のしやすいものもあり、一般の理解を得やすくなると思うんです。これはもちろん、美術のすべてが評価可能だというのではなく、そこには評価になじまないような深遠な部分もあるということを同時に言っているわけです。…続きは本誌で


表紙:
第37回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「私の弦楽グループ」
エリザ・フィリップス
イギリス 10歳女

表紙

裏表紙:
第37回世界児童画展
国内の部・美育文化協会賞受賞作品
「だれもいない洋かん」行村美紗貴
東京・墨田区立堤小学校 小学校3年

裏表紙

 

目次

特集:わたしがいる工作

美育インタビュー バルーン・アーティスト  風船職人  SHINOさん…7

「工作」はどこへ行くのか…栗田 真司…13

立体作品とその素材をめぐって…山内 舞子…18

カラフル大作戦…山田 一文…24

潜在的カリキュラムとしての「素材」…島津 泉…30

新しい素材を生かした工作の実践…斎木 章子…34

みて・見て・触って DERU・でる・マシーン…大津 雅子…38

図工にかけるエネルギーは、生きるエネルギー…佐藤ひろみ…42

熊本文庫主要文献解題
美術教育論の変遷とその周辺12

橋本忠和+鈴木幹雄+新関伸也+青木徹+寺島頼利+宇賀神俊彦+山口喜雄…48

授業研究 熊本県

幼児   わあー 黄色が消えた! 茶色がなくなっている!…福山 智子…52

小学校低学年  わくわくはんが うつして うつして…中島 尚子…54

小学校中学年  ふしぎなもようの海の生きもの…西尾 環…56

小学校高学年  大型レリーフづくりに挑戦!!…北野 京子…58

中学校   日本の美について考える…緒方 信行…60

連載
「つくりだす喜び」をはぐくむ
第9回 造形美術教育の評価(その2)…板良敷 敏…62

COMPUTER NOW File 0037
挑戦! アボリジニアート…高林 泰宏…68

美育文化総目次2007…70

連載 幼児のひろば 第18回
熊本・熊本市  若葉幼愛園  村上 靖尚…6、79

美育ニュース
「日中美術教育研究交流会」報告…浜本 昌宏…72




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