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2002 2月号

特集 テクスチュア

 ものの素材感や材質感を意味する「テクスチュア」は、色彩や形態とともに造形表現における主要な要素と考えられています。けれども、とかく視覚優位と言われる現代にあっては、触覚による直接体験は、一般的には軽視されがちであるように思われます。

 元来、絵画表現において、テクスチュアは「質感」や「筆触」という狭義の意味にお いて、表現の要素とされていましたが、20世紀の初頭頃から、シュルレアリスムや未来派などの作家によって、コラージュやアッサンブラージュのように、素材そのものを造形表現に持ち込んだ様式が登場したことにより、テクスチュアは、素材の表情や 存在感を自律的に主張するようになり、造形表現の可能性を拡大させたと考えられます。

 一方、高度に複製技術やCGの発達した今日において、図像としての絵画は、単なる画像情報に埋没してしまっているようにも感じられます。写真技術により、視覚情報 としての絵画の唯一性やそこにおける個性の絶対性にゆらぎが生じたことはすでに知られています。またCGではテクスチュアを表現できないことなどから、それらの状況は、かえってテクスチュアの重要性を際立たせる結果ともなっているのではないでしょ うか。

 また、デザインの分野において「材質感」は、物体の造形的な処理には留まらない本質的な意味をもっています。

 他方、子どもたちの造形表現においても、でこぼこ、ざらざら、ごつごつといった、手触りや質感を味わうことは、造形的な感性を育てるうえで最も原初的な体験である と言えます。子どもたちは、絵を描く以前に、このような体験から表現することの喜 びや面白さを感じ取っており、造形遊びもこれらの子どもの触覚的表現に期待している面があるように思われます。

 また、ものの質感から、情報や感覚を受け取る学習は、造形教育のみならず、五感を総合した「触覚教育」として、豊かな情操やバランスのとれた人間形成に欠くべか らざるものであることが指摘されています。

 さらに触覚をとおして、芸術作品に接する行為は、これまでの美術表現や鑑賞の在り方にも再考を促すものとなっており、すでに試みられている“手で見る美術展”の ような鑑賞方法は、視覚障害者が美術を楽しむことを可能にするだけではなく、あら たな鑑賞方法として注目されているように感じられます。

  そこで今月号では「テクスチュア」というテーマで、触覚をとおし造形教育のあり方について実践の中から考えてみたいと思います。


 

目次

特集:テクスチュア

美育インタビュー 美術家 関根伸夫さん…7

テクスチュア…後藤 雅宣…13

眼のアートから生命に触れるアートへ…佐藤完兒郎…20

造形教育におけるテクスチュアの意味と可能性…濱田 浩…28

テクスチュアを実感させる薄味の美術教育…黄瀬 重義…34

干潟で遊ぼう…愛野 良治…38

見えないものをみる大切さ…川合 克彦…42

子どもたちの触覚の実態を探る…春日美由紀…48

ふれる・感じる・かたち展…小谷 幸子…52

連載 Computer Now File 0010
鑑賞と表現を一体化した造形活動 …米山 慶志…54

連載 幼児のひろば 第12回
親子でワクワク壁掛けづくり…仲里 紀子…56

連載 高校フォーラム 第11回
高等学校工芸の授業…出井 信明…57

時 評 ドンキホーテをもう少し…58

美育ニュース…59




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