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2002 1月号

特集 発見する写生

 屋外に出かけて自由に風景などを描く「写 生」は、今も昔も図工・美術の授業のなかで最も子どもたちに人気のある単元となっているようです。

 これは一つには、教室という場からの解放が、子どもたちに自由な感覚を与えるためであるように思われますが、そこには、子どもたちが自然や風景と対話をする喜びを感覚的に求めているという事情が潜んでいるようにも思われます。

 屋外の写生においては、当然に長時間自然と向き合うことが多くなります。このため、このような制作では、時間や天候など広い意味での環境と関わり、自然に対する 個人的なものの見方を深めることができます。
また、「写生」をすることの意義のひとつとして、画面に五感の連携による表現を盛り込むことも期待できます。

 初夏の陽光のもとで草花の息吹を感じながら描く絵と、晩秋に季節の移ろいを肌で感じつつ行う写 生は当然に異なります。
このような五感の連携を自覚しながらすすめる制作は、視覚を中心としながらも、あらゆる感覚を動員したものになる可能性をもっています。

 しかし、広い意味での「写生」は、必ずしも屋外で風景を描いたりすることばかりを意味しません。自分たちの生活の様子を描写 したり、心の中の風景を素直に描出することも、ある意味では写 生的な行為であると言えるのではないでしょうか。

 かつて、自由画教育運動の時代に山本鼎らが標榜した「自由画」は、一見、今日の風景画的な写 実的作品であるように見受けられます。
けれども、ここには、それまでお手本に支配されていた臨画的世界から脱却し、もっぱら個人の感覚を通 して表現をすることが意図されていました。
これと同じように、今日、「写 生」をすることの本当の目的は、単に景物を再現的 に表現することではなく、対象を個性的な感覚により理解し、そこに外界との回路を開くことにあるようにも思われます。

 従来、ともすれば、写生=写実的表現という短絡した理念があったことは、写 生的な表現の意味を狭く捉えてきたのではないでしょうか。
ここにはリアリズムということを、単に表現の「手段」としてしか理解していない姿 勢が感じられます。
本来のリアリズムが、外見のみならず、ありのままの人間の姿を認識することからはじめる「思想」であることを考えるならば、内面 的写生の意味はいっそう深く捉える必要があります。

 そこで1月号では「発見する写生」というテーマで、写 生的な表現について実践の中から考えてみたいと思います。


 

目次

特集:発見する写生

美育インタビュー 美術家 磯辺行久さん…7

子どもにとっての新しい「写生」意味とその実践…佐々木 孝…13

「あ、ディライト」にみる発見…三根 和浪…18

「雪国の絵絵画展」の歴史と活動…知々田徳衛…24

豊かな感性を育てよう…竹澤美恵子…28

小学校における写生的意味とその実践…家田 陽介…32

見る・感じる・伝える活動を通 して…妻藤 純子…34

思い出を写生する…早水 忠彦…36

「そっくり描けてうれしい」から
「対象を理解する手段としての素描」へ…古賀 達也…46

からだ全体で表現する〈写生〉…犬童 昭久…50

連載 Computer Now File 0009
デザインプロセスの
スムーズな理解と制作のために…伏見 清香…54

連載 幼児のひろば 第11回
みんなワクワク、紙版画に挑戦!…萱森 和子…56

連載 高校フォーラム 第10回
はじめて調子を観た…益村 司…57

時 評 闇が闇として残っていた時代…58

美育ニュース…59




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