美術に出会う前の美術
岩崎 清/日本ブルーノ・ムナーリ協会 代表
ブルーノ・ムナーリ/芸術家・デザイナー・教育者
(Bruno Munari 1907-1998)
ムナーリの絵本『たんじょうびのおくりもの』
-美育文化ポケット45号 番外編-
『たんじょうびのおくりもの』(ブルーノ・ムナーリ作/谷川俊太郎訳,フレーベル館,2009年,現在は絶版)は、紙のサイズで男の感情の起伏を表し、時間の経過を太陽の色彩と大きさで描き出す、ムナーリの独創的なアイデア満載の絵本です。また、遊具「カード遊び」(43号番外編で紹介)、ワークショップ「さまざまな形」(44号番外編で紹介)に見られるように、文字による説明ではなく、色彩の伝達性やかたちの力などを通じて、話の内容が伝わってくることがわかります。
なお、視覚に訴える形の持つエネルギーや心理的な効果について、もっと知りたいと思う読者は、ルドルフ・アルンハイム『美術と視覚〜美と創造の心理学』(美術出版社、1963年)を読んでみるのもよいでしょう。
男がトラックで出発する見開きのページの左下には、「Km10」と書かれた表示板があり、次のページには「Km9」、さらにページをめくっていくと、表示の数字が小さくなっていき、目的地への距離の縮まりを暗示しています。
「Km7」のページでは、自転車さえ、故障してしまいます。
「Km5」のページでは、男の乗り物がついに壊れ、次の「Km4」のページになると、中空に午後の赤い太陽が現れ、そして遠くに小さな家が見えてきます。
「Km3」のページあたりから紙のサイズが大きく変わり始めます。落日に特有の真っ赤な太陽が見え、家はすぐそこの距離にあります。
「Km2」では、すべての乗り物が壊れ、男は裸足になります。そして、「Km1」のページでは、太陽は落日寸前で真っ赤になり、家は大きく目前に迫っています。紙のサイズはほとんど元の大きさに戻り、家に着くことになります。
写真提供/日本ブルーノ・ムナーリ協会
1回目 自然体験からアートへの第一歩 -美育文化ポケット42号 番外編- はこちら