美育文化ポケット 第43号 発刊しました。
第43号 2024 AUTUMN
目次 contents
1 ダイナミックで繊細なこどもたちの描く力
こやまこいこ
2 pocket meeting in kyoto
こどもとアートをつなぐミュージアム
髙野訓子さん(浜田市世界こども美術館)
佐藤真菜さん(鳥取県立博物館)
遊免寛子さん(兵庫県立美術館)
14 curriculum design
カリキュラム・デザイン31
特集秋をあそぶ
――創造と共有
槇 英子+馬場千晶+秋山道広
22 curriculum design
こどもと先生のおどうぐばこ
23 自分の中の「こども」を取り戻す 研修レシピ
24 biiku-navi report 美育NAVI訪問レポート37
こどもも大人も、今を豊かに生きる場所
社会福祉法人愛泉会 えじり保育園(静岡県)
ナビゲーター:磯部錦司
31 art in life
今を感じているこどもたち 槇 英子
32 連載 Arts in LIFE③
ファンタジーの共同体 磯部錦司
34 連載 アート in SPACE⑰
小金井第四小学校(東京都・小金井市)渡邉裕樹
36 連載 こどもなーとのクロストーク「アート×保育」③
自分の中での変化を実感する 牧野知佳 谷口綾奈 和泉 誠
38 practice 実践ポケット【こども園・小学校】
『福島第三小学校』と『ふくしま中央認定こども園』の
砂遊びを通した交流から 栗原さゆり
40 before art
連載 美術に出会う前の美術②
遊具――遊びながら造形的な感性を培う誘発的道具 岩崎 清
41 beautiful and pleasant things for children and us
連載 うつくしいこと たのしいこと⑪
「ねがうこと」佐藤賢司
42 drawing&painting こどもの絵を聴く
42 【幼児の部】大橋 功 43 【小学生の部】 河野愉平
44 Q&A 連載 こどもが育つ造形Q&A
石賀直之
裏表紙 僕がみつけた、アートに現れる娘の世界⑦
「いらっしゃいませ~!」 鈴木 純
pocket meeting in Kyoto
こどもとアートをつなぐミュージアム
ポケットミーティング in 京都 2024.7.6 at 龍谷大学
2024年夏、ポケットミーティングin京都は美術館から3人のゲストをお招きしました。
美術館は敷居が高い―― ?
いえいえ、そこはアートと人をつなぐ、熱い思いが詰まった場所でした。
こどもたちが育つ環境とミュージアムのいきいきとした関わりを見ていきましょう。
兵庫県立美術館 遊免寛子さん ゆうめん ひろこ
→p.9
兵庫県立美術館 主査学芸員
ミュージアムティーチャーを経て教育普及担当の学芸員となり、時折、展覧会も担当。こども・学生・教員・大人と多様な層に向けた教育プログラムを実施し、出前事業など学校との連携を中心にしつつ、ミュージアム・ボランティアの養成も行っている。
浜田市世界こども美術館 髙野訓子さん たかの のりこ
→p.3
浜田市世界こども美術館 学芸員
島根県浜田市出身。東京での編集者を経て、1995年浜田市世界こども美術館開設準備室学芸員としてUターン。以来、学芸業務全般を担当し、展覧会の企画、教育普及活動の実施、国際交流事業などを通して、“こども”と“アート”を結びつける仕事を推進。
鳥取県立博物館 佐藤真菜さん さとう まな
→p.6
鳥取県地域社会振興部美術館 専門員(鳥取県立博物館駐在)
公立中学校美術科教諭として勤務しながら鳥取大学大学院修士課程修了。その後、鳥取県教育センターと美術科指導主事を兼務。2010年より鳥
取県立博物館で普及的展示と教育普及事業を担当。2024年3月まで美術館整備局専門員、県立博物館美術振興課専門員を兼務し、現職に至る。
講演1 髙野訓子さん 浜田市世界こども美術館 学芸員
浜田市世界こども美術館 27年間の挑戦
考えたり作ったり、こどもが感性を奮い立たせるような展覧会を。
「見る」と「作る」を対等な関係として扱う。
「学校との連携」も重視
私は「浜田市世界こども美術館」という、ちょっとユニークな美術館でこどもとアートを結びつける仕事に27年間携わっています。当館は、日本海を一望する「海のみえる文化公園」の一角、小高い丘の上に、1996年開館しました。
「なぜ、こども美術館と名づけたの?」とよく聞かれるので、そのいわれを少しお話しします。日本の多くの地方都市がそうであるように、浜田市も少子高齢化が進み、高校を卒業した若者の多くは、進学や就職で浜田市を離れます。日本では1980年代に美術館建設ラッシュの波がありました。そのときに、どこにでもあるような美術館を建てても意味がない、浜田市だからこそ、こどもの心を育てるユニークな美術館を作るべきではないかと訴えたのが、教育者でもあった当時の市長でした。そして誕生したのが、こどもの教育に特化したこの美術館です。
なお、当館の正式名称は「浜田市世界こども美術館創作活動館」です。一般的な美術館のように作品鑑賞が主、教育普及活動が従という比重ではなく、あくまで「見る機能」と「作る機能」が対等の関係である美術館をめざしています。さらに「学校との連携」も重視し、これら3 つの柱を充実させることで、大人、こどもを問わず、来館者の皆さんをワクワクさせるミュージアムをめざしています。今日はこの3つの柱についてお話ししていきます。
どの展覧会にも必ず設ける体験コーナー。
感性を奮い立たせる展示を
まずは「見る」柱である展覧会事業について。私たちの展示では「こどもの目線に立つ」ことを常に心がけています。こどもにわかりやすいことは、どの世代にとっても伝わるはず。それを念頭に置いて、これまでに約160本の展覧会を開催してきました。西洋美術、日本美術、絵本の原画展、また地域の伝統芸能なども取り入れながら、さまざまな表現をこどもたちに紹介しています。
どの展覧会にも必ず設けているのが、「作る」柱のひとつである体験コーナーです。見ることは作ることにつながり、作ることは見ることにつながる。そう考えて、「見る」と「作る」の2つを体験できる展覧会を企画してきました。
例えば版画展では、デコボコボックスというものを作りました。箱の中に中身が見えないように版画の版を入れ、手を差し込んだこどもが版の凸凹に実際に触れて、版画の線や仕組みを感じられるような仕掛けを考えました。絵本関連の展覧会では、絵本の登場人物の衣装をこどもたちが着用し、キャラクターになりきって楽しみました。
また、日本画家の橋本明治さんは浜田市出身の名誉市民。ご家族から寄贈された資料のお披露目も兼ねて、生誕120周年の展覧会を開催しました。今回、橋本さんが使っていた岩絵具で絵を描く体験をしながら作品の理解を深めるなど、見るだけではなく考えたり作ったりしながら、こどもが感性を奮い立たせることに重きをおいた展示を企画しています。
【浜田市世界こども美術館の教育普及活動】
【一般向け】
・「 体験コーナー」が必ずある展覧会(年間4回程度)
・ 触って楽しむ現代美術展(年間1~2回)
・ 浜田こどもアンデパンダン展(毎年開催)
・ 世界児童画展展覧会(毎年開催)
・ ホリデー創作活動(毎週土日・祝日開催、予約不要)
・ 国際交流ワークショップ(現在休止中)
【園・小学校向け】
・ ミュージアムスクール(小学校は各校年1回来館・園へは年2回出張)
世界の児童画をパズルに変身させた、体験ツール。
…続きは本誌で
秋をあそぶ ―――創造と共有
AUTUMN 2024
curriculum design
カリキュラム・デザイン㉛
カリキュラムのデザインは、過去から未来を見通す大人の思いと今をつくり続けるこどもたちの思いが編まれていくものです。
こども自身の育ちたい衝動に応じ、明日をつくり出す力になっているかを絶えず振り返り、更新し続けることが大切です。
「こうしたら」と「こうしたい」の対話から生まれる「これから」のアートカリキュラムを一緒にデザインしていきましょう。
周囲の世界を全身で感受するこどもたちは、実りの季節の訪れを、わが事のように感じます。
根をはり、葉を茂らせたエネルギーが、内に蓄える力に変わるように、外に向かっていた表現のパワーは、内的な充実に向かい始めます。
こどもたちは、色を塗り広げる心地よさを味わいつつ、 色の濃淡や組み合わせに自分を投影する喜びを感じ、箱をつなぐ行為を楽しみつつ、仕組みや内部の作り込みに対する興味・関心へと向かいます。
これまでの出会いや葛藤、共感を経て深まった関係性が、自己を表し出す「表出」から共有される「表現」に、手探りの「探求」から意図を持つ「探究」へ、新たな意味や価値を生み出す創造体験へ、という実りをもたらすのです。
実りの秋にふさわしい「もっと」という気持ちに寄り添うカリキュラムを、ぜひ一緒に考えていきましょう。
A program for the year
こどもたちの心の季節を捉え、「ねらい」から見通しをもって援助・指導を行います。
槇 英子+馬場千晶+秋山道広
TEXT BY MAKI HIDEKO/淑徳大学 教授(P15),
BABA CHIAKI /昭和学院短期大学 助教(P16-17,20,22-23),
AKIYAMA MICHIHIRO/芦屋市立打出浜小学校 教諭(P18-19,21-22)
写真協力/大和東もみじの森保育園、大森みのり幼稚園、明福寺ルンビニー学園幼稚園・保育園(P14-17,20)、
芦屋市立精道小学校、芦屋市立打出浜小学校(P14,22-23,25-26)
カリキュラム・デザインの手がかりとして、表現の起点を 材料・環境から、 イメージ・思いから、 テーマや目的からの3つに分け、育む資質や興味関心への配慮をしやすくしました。アイコンの色で、平面(ピンク)・立体(青)・混合(緑)を示し、主なねらいについては、 発想(感性)、 工夫(創造性)、 かかわりの3つの記号で示しました。
…続きは本誌で