美育文化ポケット 第42号 発刊しました。
第42号 2024 SUMMER
目次 contents
1 「表現の主体」 天野秀昭
2 pocket interview
齋藤啓子さん(武蔵野美術大学 教授)
古賀久貴さん(昭島市立光華小学校 教諭)
10 biiku-navi report 美育NAVI訪問レポート36
めざすは遊ぶように学ぶ小学校
校庭はプレーパーク!
昭島市立光華小学校
ナビゲーター:渡邉裕樹
18 curriculum design
カリキュラム・デザイン30
特集夏をあそぶ――探求と葛藤
槇 英子+馬場千晶+秋山道広
26 curriculum design
こどもと先生のおどうぐばこ
27 自分の中の「こども」を取り戻す 研修レシピ
28 pocket news
美育文化ポケット創刊10周年記念
「明日のクレヨン」ができました
29 art in life
「図工の時間に作った
自動販売機を持って帰る後ろ姿」秋山道広
30 連載 Arts in LIFE②
2歳児がアートする 磯部錦司
32 連載 こどもなーとのクロストーク「アート×保育」②
「アトリエリスタがいる保育」で感じること
佐藤菜美 高田紀子 和泉 誠
34 practice 実践ポケット【こども園】
生活に起こる何げない出来事に
不思議さやおもしろさを見いだす 作本那由多
36 【小学校】
ペットボトルのへんしん 薄井 淳
38 【特別支援学校】
「つくる」だけではない、
感覚にはたらきかける図画工作 今井佐和子
40 before art
新連載 美術に出会う前の美術①
一歩、美術に近づくために 岩崎 清
41 beautiful and pleasant things for children and us
連載 うつくしいこと たのしいこと⑩
「ハートをえがく」 佐藤賢司
42 drawing&painting こどもの絵を聴く
42 【幼児の部】松岡宏明 43 【小学生の部】 森實祐里
44 Q&A 連載 こどもが育つ造形Q&A
椎橋げんき+小橋暁子
裏表紙 僕がみつけた、アートに現れる娘の世界⑥
「お花のジュース」 鈴木 純
「どう遊ぶか」はこどもたちのもの
-冒険遊び場が教えてくれること-
pocket interview
こどもの主体性を尊ぶ保育・教育が、声高に唱えられ始めたのはいつ頃からでしょうか。もしかしたら、こどもたちが遊びの中で普通に手にしていた主体性を、大人が奪い始めたころからかもしれません。
そうした中、アートやまちづくりなどの創造的な領域の学び手であった学生たちの中に、冒険遊び場の支え手となる若者が現われました。
今もなお、次世代を育てる立場からその精神を伝え続けているお二人のお話から、冒険遊び場のもつ力を読み解いていきましょう。
今回は、インタビューとP10からの美育NAVI訪問レポートでその確かなパワーをお届けします。
齋藤啓子 さいとう けいこ
武蔵野美術大学 教授 同大学大学院、修士課程修了。
在学時に結成した「遊べ!子どもたち編集委員会」のメンバーで冒険遊び場づくりに参加。NPO法人日本冒険遊び場づくり協会設立当初より20年間理事を務めた。市民参加・協働のまちづくりに携わり、さまざまなワークショップを実施。「公共の色彩賞」、「日本サインデザイン協会SDA賞」、「日本都市計画学会自治体まちづくりグッズ優秀賞」などを受賞。
著書/「参加のまちづくり道具箱デザインノートPART4子どもの参加」(編集:世田谷トラストまちづくり2002年)、「デザインとコミュニティ」(共著:武蔵野美術大学出版局2018年)
古賀久貴 こが ひさたか
昭島市立光華小学校 図画工作専科教諭 九州芸術工科大学大学院修了(芸術工学修士)。
1990年代後半、藤原惠洋研究室在籍時より「参加のデザイン」研究・ワークショップ実践に携わる。2000年代、NPO法人日本冒険遊び場づくり協会設立時の事務局長を担う。2010年代に教員へと転職し、3年間の学級担任を経て図工専科へ。多摩地区図画工作教育研究会(多摩図研)では事業・研修部長として多くの夏期・冬期研修を実施。
● 聞き手 槇 英子
淑徳大学総合福祉学部教育福祉学科 教授 千葉大学大学院教育学研究科修士課程修了。
IPAメンバーであるパートナーの活動に感化され、造形テキストの最終章で冒険遊び場を紹介。
著書/『保育をひらく造形表現』(萌文書林2018年)、『倉橋惣三─「児童心理」講義録を読み解く』(共著、萌文書林2017年)等
冒険遊びとアートは「作る・表現する・夢中になって楽しむ」という点で、根本が一致する
槇 既存の遊具が設置され、禁止事項の多い公園と異なり、廃材などを使ってこどもが何かを作ったり、泥んこ遊びや水遊び、時には火を使って食べ物を作ったりするなど、自由に遊べる遊び場が注目されています。こうした場所は「冒険遊び場」と呼ばれていますが、冒険遊びと保育・教育における造形的な遊びは、本質的には似ていると感じています。
一方、園や学校側からすると、「冒険遊び場」のことはよく知らないという現状があるのではないでしょうか。冒険遊び場は公教育外の居場所として展開されているイメージもあります。今回、光華小学校に冒険遊び場ができたと聞いて、「これはおもしろいな」と思いました。齋藤先生は、まさに日本に冒険遊び場が誕生したとき、その場に参加されていたのですよね?
齋藤 はい、私が3 年次(武蔵野美術大学)のときでした。今も母校で教えていますが、美術系大学では、冒険遊びとアートは昔も今もフラットにつながっている感覚です。「作る・表現する・夢中になって楽しむ」という点で、根本が一致するのでしょうね。
実際に(冒険遊び場の)プレーリーダーには、保育・教育系の出身者と同じように美大系の人もいますし、槇先生がおっしゃった“冒険遊び場は公的教育外”といった捉え方はあまりないですね。
…続きは本誌で
夏をあそぶ ―探求と葛藤
SUMMER 2024
curriculum design
カリキュラム・デザイン㉚
槇 英子+馬場千晶+秋山道広
カリキュラムのデザインは、過去から未来を見通す大人の思いと今をつくり続けるこどもたちの思いが編まれていくものです。
こども自身の育ちたい衝動に応じ、明日をつくり出す力になっているかを絶えず振り返り、更新し続けることが大切です。
「こうしたら」と「こうしたい」の対話から生まれる「これから」のアートカリキュラムを一緒にデザインしていきましょう。
夏は広がりの季節。新緑が濃くなる頃の地面の下を想像してみましょう。それぞれの根は、土の質や湿度を探りながら網目状に広がり、小石や他の根に遭遇するたびに、より複雑なラインを描いていきます。直線的な伸長を阻む事象が多いほど、地下茎の複雑さは増し、育つ足元は確かなものになっていきます。
春から続くゴタゴタが落ち着くかのように思える夏、安心を手に入れたこどもたちは、主張や挑戦を盛んに行うようになります。その姿は「探究」というより、手探りの「探求」。そこで生じる「葛藤」に魅力を感じるのは、自分を育てる手立てを知ってのことでしょうか。
アート体験は、新たな素材や他者の思いと遭遇する「探求と葛藤の宝庫」。こどもたちの葉を茂らすことより、根を広げること、まっすぐに高く伸ばすことより、丈夫な根を育てること、目に見えない育ちに目を向けてみませんか。
…続きは本誌で