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2014 1月号

特集 謳え、創造主義
Focus on:
Special issue: Praising the principle of Creative

 「……日本では最近全国あるいは地方児童画展など、はなやかな脚光をあび、うわべでは、躍進をとげたとさえ見える。/しかし、実際は、欧米の進んだ国では常識となっている児童の生まれつきの創造力を励まし育てるという原則でさえも、確立どころかまだ一般に知られていないありさまではないか。児童の創造力を伸ばすことは児童の個性を鍛える。児童の個性の伸長こそ新しい教育の目標だ。……」

 この文章は、小誌の1952年6月号に初めて掲載され、後に戦後美術教育のマニュフェストとして広く知られるようになった「創造美育協会宣言」の一節だ。この呼びかけに触発された教師たちにより、茫洋たる海原のような戦後の時間の中で、不断に積み重ねられてきた図工・美術教育者の実践は、豊かな成果を残してきた。とりわけ、子どもたちの素朴な表現力に期待した所謂、創造主義的な美術教育により多くに子どもたちは自分自身に出会うという体験を得て来た。

 さらに、この創造主義的な美術教育は、「子ども」という概念が独自の文化的存在であることを明らかにし、後に「造形遊び」が企図される土壌を形成するものとなった。けれども、そのような成果を認めるにしても、創美宣言の告発に対して、私たちは鬱向かざるを得ない気がする。その事情のひとつは「創美宣言」において、自明ものとしてきた創造性や個性という概念自体が揺らいでいることだろう。

 戦後の個人主義社会は、個性化という課題を、創美が標榜した思想と方法とはちがうシステムによって、ある意味でクリアしてしまった。このため、今や個性的であることを声高に主張することは、陳腐化しており、「児童の個性の伸長こそ新しい教育の目標」であるとは断じえない状況がある。

 私たちは無数の差異の中から選択するシステムに当面しており、そこに矮小化された個性を延命させている。それが、管理社会の産物であることは誰の目にも明らかだろう。ここには教育成果を性急に求める実利的要求が露出している。かつては、明確に子ども救うための手段であり、方法であり、思想であった創造主義的な美術教育の力を再構築することが求められているのではないか。

 私たちは、子どもの創造力に期待し、自由な表現を謳歌する図工・美術教育の実践を改めて提案したい。

“… . Lately, children’s art exhibitions, both at the national and local level, are gathering more and more attention, at least in appearance. However, we wonder if children’s natural creativity is truly appreciated and supported, as is common in the Western countries. Developing children’s creativity helps improving the ir originality. The current goal of the education should be to develop children’s originality. …”

This is an extract from “The Declaration of The Society for Creation Art Education” which was widely known as a manifesto of art education after the war and published in our magazine for the fi rst time in June 1952. While underestimated in the after-war period, art teachers who were touched by this obtained positive results.In particular, thanks to this new art education principle, children, feeling respected instead of judged for their naïve expressivity, were able to find themselves.

Besides, this art education based on creating showed clearly that “children”, a concept, is a cultural entity in its own right and then laid down the basis for “Zokei-Asobi (artistic play activities)”.However, we should reflect upon SOBI (The Society for Creation Art Education)’s declaration, even though we recognize their result s, because it shakes the common ideas of originality and individuality that were self-evident before.

The individualistic society after the war solved the problems of individualism in a certain way, but with different thoughts and methods that SOBI advocated.That is why their definition of originality is outdated and we cannot agree with SOBI’s declared goal. We are working with a system where we can select among innumera ble slightly different choices, restricting originality by narrowing the scope.

It should be evident to everybody that this is a product of a c ontrolled society.This is exposing the utilitarian requests or seeking the results of education immediately.We wonder if it is really necessary considering the current situation to rebuild art education around the concept of creativity. Instead we would like to propose new art education practices based on letting expression free.

鼎談 創造主義的美術教育再生のために何をすべき

●柴田和豊 世の中が動くときには、その下地や大きなきっかけがあります。戦後の美術教育において民間美術教育運動、中でも創造美育運動の果たした役割の大きさはいうまでもありませんが、その背景には近代から続く世界史的な動きがあったと思います。その時代の芸術と教育にまたがる新たな活動は、人々に「見つめるべき対象」と「発語する方法」を示すものであり、創美はその中の特筆すべき運動体であったと捉えています。しかし、それらを支えたのは、時代と人々の中に宿る人間の可能性への熱い眼差しであったことを忘れてはならないと思うのです。

○西野範夫 この鼎談が、戦後の創造主義というテクストを、単に過去における価値や意味あるテクストとして理解、回顧し、それを讃えることに終わるのではなく、現代的視座から積極的にとらえなおす、読みなおすことに比重をおきたいと思います。そのことよって、現在の問題を切りひらく手がかり得られると思うからです。また、そのことによって、この「美育文化」が、今、そして、これからもやりつづけるべきことが見えてくると思います。

◎鈴石弘之 図工の先生が、図工室に立てこもっていてはいけません。担任の先生と様々なところで交流できる度量のある先生を何人か探し出して「やってること、いいじゃん」って言ってあげる人が必要ですね。図工室の世界は狭いですよ。そこから飛び出して、単なる図工教育ではなく、人間教育というのかな、総合的な学習の時間のようなところにもどんどん切り込んでいくようなことが必要な気がしますね。
…続きは本誌で

目次

特集 謳え、創造主義

鼎 談 創造主義的美術教育再生のために何をすべきか
6 西野範夫×柴田和豊×鈴石弘之
オブザーバー:辻政博 司会:穴澤秀隆(編集部)
16 表現は子どもの宝 上野 浩道
20 美術教育のいまと創造主義 相田 隆司
24 危機に立ち向かう意志と身体 谷口 幹也
28 子ども賛歌 嵯峨 淳心
32 北川民次の言葉から 濱脇みどり

連 載
36 図説 子どもART学 第16回 「創造主義」のゆくえ…… 辻 政博
38 PHILOSOPHY OF SUBJECT MATTER
「題材原論」[共通事項]への理解を深めるために 第5回
題材を構成する要因(その2) 水島 尚喜
40 世界児童画展ギャラリー
42 授業ライブ 第9回 ただいま建設中〈4年生〉
東京・八王子市立鑓水小学校 辰野美奈子 取材: 伊部 玉紀

授業研究
44 幼児 おうちをつくる、生活をつくる 阿部 学
46 小学校低学年 「粘土」は時空を超えたタイムカプセルだ!! 徳嵩博樹
48 小学校中学年 土となかよし 岡部 哲
50 小学校高学年 自分たちの学校のゆるキャラをつくろう! 岡 照幸
52 中学校 地域のよさを大事にし、地域を発信していく題材開発 鈴木 嶺

連 載
54 美術教育にとって「合目的的」とは何か
第4回・デザイン教育にとって「合目的的」とは何か 那賀+彦

60 美育ニュース
中国江蘇省塩城市人民政府からの寄贈図書『【中国剪紙】京劇臉譜』と
ものづくり教育における「責任」の問題……佐藤昌彦+徐 英杰
『きぼうのてプロジェクト2 ~みつけた たからもの~』
青森・多摩 同時開催展覧会……柴その後の越喜来 片山和一良と『潮目』……山口篤則




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