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2010 3月号

特集 第40回世界児童画展

 世界児童画展がスタートした40年前と現在では「世界」という言葉のイメージは変容しています。

  元来、「世界」にはふたつの意味があります。第一は地球という母集合。そして二番目は、「国内」に対する「海外」という部分集合の意味です。たとえば「日本史/世界史」という概念は後者の感覚によるものでしょう。

  しかし、今日では「世界=海外」という意識は希薄になり、「世界」こそが私たちのフィールドであるという感覚が拡がっています。これは私たちの視野と行動可能性の拡張によってもたらされた世界の縮小傾向であるとも言われています。

  「世界」に対する私たちの距離感が縮まり、展望が広がったことの実際的な要因がトラフックとコミュニケーション手段の発達にあったことは疑い得ませんが、その背後には、地球温暖化への懸念や戦争やテロの恐怖というネガティブでさしせまった心理的要因があったと言えます。

  感覚的には縮小し概念的には拡張した「世界」に対して、私たちが必ずしも晴朗ではなく、グルーミーな気分に支配されがちなのはこのためでしょう。

  世界児童画展は、今回、区切りとなる40回を迎えました。

  今日、世界が平和で安定しており、希望に満ちた未来があると感じている人は稀でしょう。世界は未だ混迷の渦中にあり、米国大統領が掲げた「チェンジ」もその具体的施策が伝えられているとは思えません。また昨年末に開催されたCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)も、展望を示せぬままに閉幕した印象を受けます。

  金融経済が混迷状況を脱していないだけではなく、貧困と食糧問題、民族問題と戦争の危機、資源と環境問題などに展望が見出せず、焦燥感と無力感が蔓延している精神の没落状況がある気がします。

  ここでは従来の経済的な成長戦略という路線のなかで世界のあり方を構想する方法の限界が見え始めているようにも思えます。「戦略」ではなく、人類の「合意」を形成する感性の基盤が求められている気がしてなりません。

  ところで、子どもの表現には、それが万人の記憶であるという側面があります。これは、子どもたちは現に子どもであり、大人もかつては子どもであったという単純な事実に基づくものであり、それゆえ、人種、民族、性別を問わず、万人が共有できる感性のテーブルとなりえます。

  同一性よりも差異に、一般性よりも個別的観点に目が向けられがちな今日の文化状況の中で、この平明さは、説得力を有し、人々の共感を呼び、感性的合意を形成する可能性も持っていると私たちは考えます。

  私ども主催者は、この展覧会を40年にわたり開催してきたことに誇りと責任を感じています。けれどもそれに安住することなく、子どもたちの絵に新しい時代感覚を見出したいと思っています。

  子どもの表現の中に変わらぬ豊かさやぬくもりに接する一方で、未来を切り開いていく鋭く、しなやかな感性があります。この展覧会を通じてそれらが育っていくことを願っています。

表紙:
第40回世界児童画展
海外の部・外務大臣賞受賞作品
「お家」
カミラ・ムリーチョ
コスタリカ 6歳女

表紙

裏表紙:
第40回世界児童画展
国内の部・内閣総理大臣賞受賞作品
「小悪まと天使と教会広場」
中村 萌音
東京・品川区立立会小学校5年

裏表紙

 

目次

特集 第40回世界児童画展

内閣総理大臣賞受賞作品…3
文部科学大臣奨励賞受賞作品…4
外務大臣賞受賞作品…8
国内の部優秀作品…16
海外の部優秀作品…26
国内の部応募状況…35
概要・審査員一覧…36
国内の部特別賞受賞者名簿…38
海外の部応募状況…41
国内の部審査講評…42
海外の部審査講評…45

世界児童画展40年の歩み…51

美育ニュース…91

*授業研究、〈美術/教育〉の扉をひらく、Computer Now、幼児
のひろば、は休載しました。




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