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2009 1月号

特集 作品とは何か

 図工・美術の授業は、製作体験に根ざした学習を中核にしているところに大きな特色があります。そして製作は、その結果、あるいは成果として「作品」をもたらすことになります。けれども、この構造がしばしば矛盾や混乱を引き起こしてもきました。

 作品をつくることが、はじめから目標であるかのような作品主義、それを支える技術主義、それらが教科のあり方を矮小化してしまうことは、かねてより指摘されています。ここでは、作品をつくることではなく、人間をつくること、別の言い方をすれば、個人を確立することが近代教育の目的であり、その個人を確認する手段や指標として「作品」があるという本来の構造が転倒しています。

 ところで、それでは「作品」とは、いったいなんでしょう。

 造形表現の結果としての絵画や彫刻などが「作品」であることは、一見、疑い得ないように思われますが、ここでは絵画や彫刻の形状や色彩情報が「作品」なのではなく、そこに込められた意味やメッセージこそが作品の本質だという理解が、むしろ一般的であるように思えます。すなわち、人の感覚に影響を及ぼし、感動を与えたりするものが「作品」であるという考えが導き出されてきます。

 コンテンポラリー・アートにおいては、この考えを進めて、実在としての「作品」以上に、作品と鑑賞者の関係性や、制作をする「行為」、それを見る「体験」などを主要な要素としたアートが構想され、パフォーマンスや一部のインスタレーションやワークショップに見られるように、はじめから実体としての作品づくりを意図しないものや、作品が変容することに価値をおく制作が行われています。

 他方、子どものものづくりに終わりはあるのでしょうか。

  「芸術表現は果てしないものだ」と言われます。ここには、「表現世界の奥深さ」というような求道的なニュアンスが感じられる一方、事実や関係性の問題として、行為にピリオドの打ちようがないことが示唆されていると思われます。

 なるほど、子どもたちは、「できた」という満足や、ときには授業時間の終わりというような外部的な強制によっても、つくることを中止します。それは、「とりあえずやめる」のでしょう。けれども、そのとき、行為が子どもの内部に引き起こした“できごと”は、おしまいになっていないように思われます。

 未完成、アイデアにのみ留まった作品、あるいは、失敗作として放棄されてしまった作品は「作品」ではないのでしょうか。

 今日、近代美術のみならず、コンテンポラリー・アートやさらにはメディア・アートなどをも、美術教育が視野に入れたことから、従来の作品概念は変容を迫られていると考えます。

 そこで、この号では、「作品とは何か」というテーマで、図工・美術教育における作品と製作の意味について考えてみたいと思います。



1月号 美育インタビュー

アーティスト・「現代っ子センター」主宰 藤野 忠利 さん
  「芸術は人を驚かすものである」というのが近代までの芸術の大テーマがあったとすれば、「人のやらないことをやれ」というのが、具体美術協会の吉原先生の言葉でした。それは、誰も描いたこともないものを描くことだと思います。これはその人にしかできないオリジナリティーのある表現を見つけだすことです。しかし、それは人に見せるためではありません。ちょっとおかしな表現ですが、人の前に投げだし、人にくらわすような新しくて、ケッタイで無茶苦茶なものをつくり出すこと、これに意味があります。
  また、芸術において、こうでなければいけないということはありません。芸術活動というのは我々の精神が自由であることの証しです。そして、そういう表現をするためには、何よりも先入観を捨てなければダメですね。…続きは本誌で


表紙:
第38回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「新年の爆竹」チャン・チュウヤン
中国 5歳男

表紙

裏表紙:
第38回世界児童画展
国内の部・日本美術教育連合賞受賞作品
「なかよしなふたり」金丸 忠
東京・新宿立花園小学校2年

裏表紙

 

目次

特集  作品とは何か
美育インタビュー アーティスト・「現代っ子センター」主宰 藤野 忠利さん…7
美術教育における「作品」という問題群
「反・作品」から「脱・作品」へ 永守 基樹…13
作品の機能:考える、超える、開く
モノ、コト、ヒトと対話する力 花田 伸一…20
「作品」はなぜ生まれたのか? 西村 徳行…26
「子どもにとっての作品」と「先生にとっての作品」 北川 智久…30
表現は自らの生成を彩る 木村 早苗…34
作品は場である 加藤  啓…40
「自己の存在の証」につながる“作品” 老松 法光…46
対話によって広がり、心に残る作品とイメージ 寺田  実…50
新連載
〈美術/教育〉の扉をひらく ー新しい社会文化システムの中へー-
第1回 そのための序論 長田 謙一
授業研究
●徳島県
幼児 作って鳴らして、見て聞いて! 佐川 和子…62
小学校低学年 楽しいよ!お話をつくったり 音をさがしたり 山本 敏子…64
小学校中学年 学校彫刻展を開こう 森 裕二郎…66
小学校高学年 世界に届け!ぼくたち・わたしたちの願い太田 裕子…68
中学校 日和佐中学校認定「世間(せけん)遺産」 小浜かおり…70
連 載 computer now File 0042
  立体感のある平面構成 加藤  豊…72
連 載
幼児のひろば 第23回 広島・福山市・神辺千鶴幼稚園 瀬尾 稔子…6・81
NEWS 美育ニュース…74
*熊本文庫主要文献解題は休載しました。




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