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2008 11月号

特集 鑑賞教育を問う

近年、図工・美術の教育においては、“鑑賞教育の重視”という方向が強く打ち出されています。

ここには、実生活においては、造形的な表現の場面に比べて芸術作品を鑑賞する機会の方が多いという判断があり、教育内容としても、また国民的なニーズとしても、鑑賞活動を通じて美意識や美的選択能力を高めることが求められているという認識があるものと思われます。なるほど、趣味や愉しみとして絵を描いたり、クラフトの制作をしている人も増えてはいるものの、年間に美術館を訪れる観客数と比べれば、その数には差があると言えるかもしれません。

一方、このような数の発想によって教育の必要は語られるべきものかとも思われます。今日、この国の多くの人々が野球やサッカーをテレビで見て楽しんでいます。しかし、実際にそれらのスポーツに日常的に親しんでいる人が、それに比肩するほどには多いとは言えないでしょう。いや、スポーツ人口が増大しているのは明らかですが、テレビでの観戦者数との比較となれば、歴然たる差があります。しかし、だからと言って、「するスポーツよりも見るスポーツの方が大切」などということにはなりません。これは「それぞれに楽しみ方がちがう」ということを認識しておけばよいのだと思います。

けれども、「鑑賞教育の重視」という風潮の背景は、そのようには割り切れない面があります。それは「文化遺産の継承・伝達こそが教育の主要な目的である」という、もっともでありつつも、極めて固着した認識があるためではないでしょうか。この理解に基づいて、中学校の新指導要領では、「日本の美術や伝統と文化に対する理解と愛情を深めるとともに、諸外国の美術や文化との相違と共通性に気付き、それぞれのよさや美しさなどを味わい、美術を通した国際理解を深め、美術文化の継承と創造への関心を高めること」を求めています。

無論このことの意味は重要と思われますが、鑑賞活動は、当然に見る対象が想定されます。つまり「何を見るか」ということが、まず問題になります。子どもの発想や興味・関心を尊重すると言いながら、ここに介在している意識や無意識に私たちは敏感になる必要があります。そして、一人ひとりの個性を大切にし、創造的な能力を培うことが強く求められているこの教科において、鑑賞の指導が単なる美術文化の知識の習得に終わるべきでないことは明らかです。

重要なことは、子どもの生活や発想、興味・関心などにそって、従来の美術文化の歴史を読み返し、子どものコードに従って組み直して提示していくことでしょう。実際にはこれは困難な作業と言えます。けれどもそれをしない限り、いかに価値ある文化遺産と言えども、子どもたちに感動や実感をもって理解されることはなく、かえって「価値ある文化遺産」という権威のハードルだけが、前に高く持ち上げられ、子どもをたじろがせる結果になる心配があります。他方、多少乱暴な分析ですが、今日、鑑賞教育の意欲的な実践は、下記のほぼ4つくらいのトレンドに集約される気がします。
・美術館に行こう ・デジカメを持って教室の外へ出よう
・アートゲームで遊ぼう ・対話型鑑賞教育

これらは、それぞれ従来の鑑賞学習の問題点を克服する目的で企図された活動と考えられます。ついてはこれらの実践の意味に関し、より綿密な検討が求めれていると思われます。

そこで、この号では、「鑑賞教育を問う」というテーマで、子どもの豊かな造形活動を保障していくための鑑賞の教育の在り方について考えてみたいと思います。



11月号 美育インタビュー

ミュージアム・エデュケーション・プランナー 大月 ヒロ子 さん
  私には近年のワークショップの理解のされ方は、コミュニケーションという問題とあまりにも簡単に結びつき過ぎているのでは、という懸念があります。
  たしかに現代の社会に、かつてのようなコミュニティを直ちに復活させることはできませんよね。少子化とか核家族化とかいう問題があり、子どもも大人も孤立しているというのが客観的な社会認識だと思います。ワークショップに可能性があると言われるのは、多少なりともそういう状況に揺さぶりをかけられるかも知れないという思いがあるからでしょう。…続きは本誌で


表紙:
第38回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「冬」ナタリア・ゴンダ
ハンガリー 8歳女

表紙

裏表紙:
第38回世界児童画展
国内の部・美育文化協会賞受賞作品
「みんなで馬を見たよ」石川 詩乃
北海道・北広島市・
大地太陽幼稚園 6歳

裏表紙

 

目次

特集 鑑賞教育を問う
美育インタビュー ミュージアム・エデュケーション・プランナー 大月ヒロ子さん…7
鑑賞教育再考 柴田 和豊…13
-受容と表出の連環を求めて-
己と世界が交差する場所として 相田 隆司…18
鑑賞教育は、子どもたちに何を保障するのか? 谷口 幹也…24
〈呼応の関係性〉をはぐくむ鑑賞教育 島田 佳枝…30
鑑賞教育の無化へ、そして比類なき体験へ 柴崎 裕…36
「人」とのかかわりから始める鑑賞 荒川 洋子…44

熊本文庫主要文献解題 美術教育論の変遷とその周辺17…48
春日明夫+新関伸也+永守基樹+山口喜雄+
尾崎勇司+天形 健+福本謹一+藤澤英昭

授業研究
●長野県
幼児 夏まつり みんなで花火を打ち上げよう!川上ゆかり…52
小学校低学年 ワァー!すごい!!造形遊びは無限大!! 徳嵩 博樹…54
小学校中学年 わたしは学芸員!みんなの作品でギャラリートーク!! 野田 俊司…56
小学校高学年 色と形の遊戯 常田 浩二…58
中学校 私の願いを叶えるキャンドルライト 森   崇…60

連 載
computer now
File 0041
  絵巻を楽しむ 原田 敬一…62
美育文化総目次2008…64
BOOKS
新刊紹介 上野 行一…66
『日本美術101鑑賞ガイドブック』 神林恒道・新関伸也 編著
連 載
幼児のひろば 第22回  神奈川・厚木市 緑ケ丘幼稚園 林  美…6・79
NEWS
美育ニュース…67




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