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2007 5月号

特集 子どものじかん

私たちは時計という道具を利用して時間を計測することで生活しています。そこでは多忙な1時間も、のんびり過ごす1時間も同じ量として捉えられています。

一般に子どもたちの学校での生活は、教科の枠組みや、その内容を縦軸として、時間を横軸として構成されています。そのうち、教科内容に関しては、教育の基本的な研究課題として、しばしば論議されていますが、“時間”そのものへの論考は行なわれていないように思われます。学校の1時間=45分(50分)の根拠は何であり、年間の授業時間はどのようにして規定されているのか、というような素朴な問題にしても、十分には説明されていません。教育課程の再編は、常に「時間数」の問題に集約される傾向がありますが、その場でも、このような“時間の質”をめぐる考察は省みられていないように思われます。

そもそも“時間”は均質なものではないと言われています。物理学や哲学の分野では、既に相対性理論や固有時といった概念によって、時間と運動との関係が明らかにされていますが、生活の実感としても、一般に、楽しく熱中している時間は短く、強制された時間は退屈で長いものに感じられます。また、目的地への行きと帰りでは、時間そのものの性質が違っているようにさえ思われます。このような、人間の心理に及ぼす時間意識の差異や生命体のリズムと時間の関係についても、よりきめ細かな検討が要求されています。
そして、このように考えたとき、学校教育における、「図工や美術の時間」の意義や特殊性を「時間の性質」の問題として議論することが必要です。つまり、単に図工・美術の時間を量的に獲得することのみが重要なのではなく、この時間が、柔らかで、個別性に富んだものであることを論拠として、そのような柔軟な性質を持った時間の必要性を主張することも説得力をもつ気がします。

また、振り子やゼンマイ、クォーツなどを原理とした“時計”による時間の計測以外にも、子どもの生活や遊びの中には、時計を使わない時間の計り方や感じ方があることは注目に値します。影の移動、日時計、水の流れ、氷の融解、更には、背が伸びる、おなかがすく、植物の成長、年輪、地層、腐食、錆、蝋燭や線香の燃焼、天体の運行、潮の干満、月の満ち化け…など時間のメタファーを有効に発展させることにより、より豊な時間を獲得できるように思われます。

一方、別の見方をすれば、近代は能率、確率、そして自由といった概念による時間の管理と解放の歴史であったとも言えます。そして、その構造の脱構築に際して、時間をめぐるファンタジーは、多くの示唆を与えてくれており、その代表としての“タイムマシン”の夢は、古くから人類を魅了し続けてきました。
また、時間の経過を保存したり、表現しようとする試みも独自の意味と歴史を有しています。そもそも、絵画をはじめとする芸術一般にその要素は内在しており、写真や映画、録音などのテクノロジーは、その可能性と方向をより鮮明にしたと言えます。そこでこの号では、このような“時間”めぐるさまざまな問題について、美術教育の立場から考えてみたいと思います。



5月号 美育インタビュー

メディアアーティスト 藤幡 正樹 さん
 「がんばれ!図工の時間!! フォーラム」がこれまでの美術教育運動とちがっているとすれば、それは、私たちがこの運動を、図工という、ひとつの教科のカリキュラムの問題だとは考えていない点だと思います。

  図工は美術教育の一部ではなく、じつは美術や美術教育よりも広い概念であり、今回、私たちがしようとしているのは、それよりも、さらに大きな問題だと考えています。

  理科でも実験が減っていることが指摘されていますよね。科学の実験というのは、具体的なものがあり、そこにあるスキームを与えられたときに起こる変容を、身をもって体験することでしょう。これは図工の方法によく似ています。このような身体感覚を伴った学びの場が減っていることが深刻な問題だと思っています。…続きは本誌で


表紙作品:
第37回世界児童画展
海外の部・特別金賞受賞作品
「カーレース」 チー・ジウン・エン
シンガポール 8歳男

表紙

裏表紙:
第37回世界児童画展
国内の部・日本美術教育連合賞受賞作品
「かわいいこども」 小澤一成
東京・品川区立立会小学校 小学校1年

裏表紙

裏表紙題字:石井柏亭

 

 

目次

特集:子どものじかん

美育インタビュー メディアアーティスト  藤幡正樹さん 7

知性と芸術、時間をめぐって  ベルクソン・ボイス・川俣  神野 真吾 13

変化したことの、表現…上村 豊…18

「子どもの時間」から「アートの時間」へ…谷口 幹也…24

材料を駆ける手…石賀 直之…30

自分のリズムで揺れている…柴崎 裕…38

「今/ここ」から未知の領域へとつづく時間を…阿部 英也…42

「見る」時間の質について…山口 拓也…46

熊本文庫主要文献解題
美術教育論の変遷とその周辺9

尾澤 勇+春日明夫+藤澤英昭+坂本 晶+太田恵子+山口喜雄+池内慈朗+天形 健+山田芳明+大坪圭輔+島田佳枝+佐藤真帆…50

授業研究 宮崎県

幼児   かいてみよう、つくってみよう…宇戸 民子…56

小学校低学年  つなげて つなげて “あっ、みはえ小が…!!”…久米川幸子…58

小学校中学年  アートカードから生まれたわたしの世界…金丸 恭浩…60

小学校高学年  墨で遊んで…野崎 成嗣…62

中学校   ヘン顔選手権…岩室 美鈴…64

連載
「つくりだす喜び」をはぐくむ
第6回 造形美術教育の内容(その3)…板良敷 敏…66

連載
File 0034
ジョークアニメーションをつくろう…倉元 豊秋…72

BOOKS
新刊紹介『玩具創作の研究』 春日明夫 著…大泉 義一…74

連載 幼児のひろば 第15回

三重・鈴鹿市  第一さくら幼稚園  後藤やす子 6、79

美育ニュース…75




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