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2007 3月号

特集 第37回世界児童画展

「世界は年々小さくなっている」これは実に言い古された箴言だが、今日なお一定の説得力を保持している。 それはかつては交通機関の発達による流通の増大と所要時間の短縮を意味し、今日はインターネットによる情報伝達の即時性を象徴する表現となっている。

実際、Google earthという世界地図をすっぽり収めたソフトに接してみると、まるで世界を手のひらの中で回転させているような感覚にとらわれる。けれどもそのインターネットによって配信されてくる情報は、あきれかえるほど雑多で、世界の個別性と多様性を私たちに見せつけてくれる。

「世界はひとつである」あるいは「ひとつであるべきだ」というコスモポリタニズムは確実にアウラを失いつつある。国際紛争が終息しない事実や、権力による抑圧から未だ人類が解放されていない現状がそれを実証しているからだ。しかし、そうは言っても、「平和と人権」が不可侵であり、それこそを人類の達成目標として愚直に掲げてきたからこそ、 かろじて今日の国際社会が維持されていることも、また事実だろう。そして、その努力が不断になされていることを考えるとき、これらの理念はなお深く受けとめなけらばならない。

他方、エコロージーの思想により、ひたすら拡散方向にあると見られていた人類の価値観に、ともあれ収束の方向が示され、人々が共通の倫理と目標を獲得しつつあることは事実だろう。だが、その一方、この理念が資源とエネルギーが、「限りある」ことへの覚醒を基調としていることから、あたかも人類の文化や理想や未来までもが、有限であるかのような閉塞感と抑鬱的感情を醸成している気がしないでもない。『ブレードランナー』あたり以降の映画や小説に描かれている近未来のイメージが、まったく晴朗なものではないことは、この気分を遠因としているように思われる。

このように考えると、たしかに世界がしぼんだ気がする反面、その質量はよくも悪くも増加している感覚にとらわれる。つまり地球が比重を増した一方、私たちの感覚は落ち着くところを喪失して、浮遊しているように思われる。地球と世界に対する、このような重たく同時に軽やかな感情は、子どもたちにどう反映しているのだろうか。



座談会

きっぱり、子ども主義!
 昨今、様々な形で教育問題が取り沙汰されています。ここには地球環境の限界が懸念され、政治や経済にも閉塞感がある中で、教育こそが社会や人間の回復と再生につながるという切実な期待感があるのかも知れません。また、いじめや子どもの自殺などが社会問題として再浮上しているという事情もあります。いずれにせよ、教育問題が社会の中心課題として意識されている状況があります。

具体的には、昨年末の教育基本法の改正に伴う、政府主導の教育改革のスケジュールがあり、教育再生会議の論議もここに含まれるものと思われます。

これらの動きは、今日、大衆感覚を覆いつつある競争原理や効率主義を教育現場に導入するものであり、その背後には経済界・産業界の意向と要請が感じられ、子ども不在の教育改革ではないのかという懸念を感じます。法令の改変や、制度の見直し以前に、その対象であり主体である「子ども」について改めて論議し、理解することが求められていると思われます。

そのような折り、都図研(東京都図画工作研究会)より、『子ども主義宣言』(秀学社/3月発行予定)という書籍の編集が進められていると聞き及びました。今申し上げたような風潮の中で、これは時宜に適った企画であろうと思われます。

そこで本日は、『子ども主義宣言』の企画を中心になって進めてこら れた都図研の3人の方に、関西国際大学教授の板良敷敏さんに加 わっていただき、教育改革論議の中での図工教育の諸問題についてお話し願いたいと存じます。…続きは本誌で


表紙作品:
第37回世界児童画展
国内の部・内閣総理大臣賞受賞作品
「おうさまこいのぼり」
地挽 空良
東京都 墨田区立堤小学校 2年

表紙

裏表紙:
第37回世界児童画展
海外の部・外務大臣賞受賞作品
「宇宙から来た鳥」
ローラ・クラインズ
アイルランド 11歳女

裏表紙

 

目次

特集:第37回世界児童画展

内閣総理大臣賞受賞作品…3

文部科学大臣奨励賞受賞作品…4

外務大臣賞受賞作品…6

国内の部優秀作品…14

海外の部優秀作品…26

国内の部応募状況…35

審査員一覧…36

国内の部特別賞受賞者名簿…38

国内展開催一覧・海外展開催一覧…41

国内の部審査講評…42

海外の部審査講評…46

海外の部応募状況…50

座談会
きっぱり、子ども主義!

板良敷敏+高橋香苗+辻 政博+横内克之…51

熊本文庫主要文献解題
美術教育論の変遷とその周辺8

磯部錦司+小岩 俊+堀井武彦+柴﨑 裕+三根和浪+清水満久+山田芳明+山口喜雄…64

連載
「つくりだす喜び」をはぐくむ
第5回 造形美術教育の内容(その2)…板良敷 敏…68

美育ニュース…74





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