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2006 3月号

特集 第36回世界児童画展

今日の国際社会の主導理念の見取り図を描くなら、それは、従来の平和主義と人権尊重に、異文化理解とエコロジーが加えられたものではないかという気がします。

このうち前者二項が、相変わらず「崇高な理念」として、ただ拝礼されているのみであることに憤激・慨嘆する立場は、国際紛争が終息しない事実や、権力による抑圧から未だ人類が解放されていない現状を考えるとき、「全くそのとおり」と共感できます。
けれども、少なくとも「平和と人権」が不可侵であり、それこそを人類の達成目標として愚直に掲げてきたからこそ、かろうじて国際社会が維持されていることもまた事実でしょう。そして、その努力が不断になされていることを考えるとき、これらの理念をなお深く受けとめる必要があります。

一方、異文化理解の必要性も、「異文化無理解」という現状の暴露に由来したにすぎないというシニカルな見方がある反面、情報技術の発展や交通手段の発達によって、確実にその溝が埋められていくことが期待できます。
他方、エコロジーにより、とかく拡散方向にあると見られる価値観に、ともあれ収束の方向が示され、人々が共通の倫理と目標を獲得しつつある気がします。
しかし、その一方、この理念が資源とエネルギーが、「限りある」ことへの覚醒を基調としていることから、あたかも人類の文化や理想や未来までが、有限であるかのような閉塞感を醸成している気がしないでもありません。映画や小説に描かれている近未来のイメージが、まったく晴朗なものではないことは、この気分を遠因としているように感じます。

世界の状況は、このように様々な課題を抱え渾沌としています。「希望はない」という人が増え、「だからこそ希望を語るべき」という主張がなされています。

世界児童画展は今回で36回を迎えました。
この展覧会は、子どもたちの感性と理性の調和のとれた成長を願い、子どもたちがみずからつくりだす造形文化の支援と、国境を越えて世界の人々をつなぐ国際相互理解を目的として開催されてきました。

また、世界児童画展では、大人の強制や干渉によらない、子どもたちの自由で生き生きと表現された“ふだん着の絵”を大切にすることを一貫して提唱してきました。それは、子どもたちの自由で飾らない表現の中にこそ、生き生きとした姿を感じることができ、それが子どもたちにとって未来につながる生きる証になると考えるからです。

私たちは世界児童画展を通じて、21世紀をになう子どもたちが、世界のさまざまな文化、風土に触れ、自然のうちに国際親善や国際理解の芽を育むことを願っています。



児童画展審査員インタビュー

文部科学省視学官 板良敷 敏 さん
  子どもの表現に普遍性があるというのは、人間には文化や社会の状況に応じつつ、それに左右されない力も生来備わっているということだと思います。ゴリラやチンパンジーも絵を描くという報告もありますが、それは人間が描く、閉じた線による「図」としての絵にはなりません。 子どもたちは一つの点や一本の線を描くにしても意図が込められていたり、描いた後に意味を付与したりします。だからこそ、それが「表現」と言えるわけで、これは普遍的な〈知〉の働く仕組みではないかと思います。…続きは本誌で


表紙作品:
第36回世界児童画展
国内の部・内閣総理大臣賞受賞作品
「おひめさま」
小澤 シェイン・ロメリー
東京・墨田区立堤小学校 3年

表紙

裏表紙作品:
第36回世界児童画展
海外の部・外務大臣賞受賞作品
「春が来た」
ガブリエラ・ガイダ
ポーランド 10歳女

裏表紙

 

目次

特集:第36回世界児童画展

内閣総理大臣賞受賞作品…3

文部科学大臣奨励賞受賞作品…4

外務大臣賞受賞作品…6

国内の部優秀作品…14

海外の部優秀作品…26

国内の部応募状況…35

審査員一覧…36

国内の部特別賞受賞者名簿…38

国内展開催一覧・海外展開催一覧…41

国内の部審査講評…42

海外の部審査講評…46

海外の部応募状況…50

●審査員インタビュー
楽しさが広がる子どもの絵の世界

文部科学省視学官  板良敷 敏さん…51

熊本文庫基本文献解題
美術教育論の変遷とその周辺2

楚良 浄 + 横内克之 + 南 育子 + 梁 洋子 + 岡田京子 + 北澤俊之 + 辰巳 豊 + 山口喜雄 + 林 耕史 + 長尾宏一 + 三澤一実 + 槇 英子 + 森高光広 + 楠田玲子 + 小林貴史 (順不同)…56

連載 子どもの育ちと表現
絵画表現に立ち現れる
第8回 論考 子どもの育ちと表現 鈴石 弘之…64

美育ニュース…72




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