誰のためでもなく、ひたすら自分自身の欲求にしたがって紡ぎ出される幼児の造形表現には、図工・美術教育の原点とも言える素朴で飾らない魅力があります。
それは大人の価値観と比較では論じられない独特のものの見方や感じ方が幼児にはあるためでしょう。
幼児に限らず、図工・美術の教育は、そのような子どもたちが自ら学び、表現する意欲と能力を持っている存在であるという認識に立つべきだと考えます。
このような子どもらしさを大切にする子ども本位の造形教育理念を掲げて、昭和30年代末より一貫して研究と実践活動を行なってきた「幼年美術の会」が、今年、40周年を迎えました。
小誌はこの会の発足以来、その主張と実践をご紹介してきました。
そこでは子どもの表現の根拠をプリミティヴな「感動」に求めるか、あるいは理性的な判断力による「認識」を重視するかという、いわゆる「感動/認識論争」や、その展開としての「発散/沈潜論争」などの真摯な論争が行なわれました。
そこにはまさに美術教育の青春時代の輝きが感じられます。
しかし、そのような努力にもかかわらず、子どもの表現は大人の芸術に比べ、とかく劣っているとか、発達の途上にあるものとして理解され、大人は子どもたちの表現を指導・発展させるべきであるという考えは根強く残っており、早くから大人のような知識や技能を身に付けさせようとする早期教育熱はいっこうに衰えないようにも見受けられます。
斯界の混迷と教育運動の停滞が指摘されている今日、当時の情熱に学び、活力を得ること求められているように思われます。
この号では、「幼年美術の会」の歩みを通して、表現の原点としての幼児の造形教育について、実践の中から考えたいと思います。
表紙作品: |
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裏表紙作: |
特集:表現の原点としての幼年美術
美育インタビュー 安曇野ちひろ美術館・ 長野県信濃美術館 館長 松本 猛 さん…7
幼児の育ちと造形表現活動の今日的課題と実践…浜本 昌宏…13
自由画は子どもの心を解放する…塩川 寿平…18
幼年美術の会 40年の歩み
監修:奥山淑子
編集:美育文化協会…26
座談会 幼年美術への想い
林 健造 黒川建一
井坂とく 奥山淑子
司会:耕田晃…34
コラム 私と幼美
廣富靖海 木村量好 田中敏子 向井朝子
武田彰子 中村美子 早田嘉之 耕田 晃
幼年美術・私の実践
北海道 みんなで作ろう!運動会…佐藤 貴子…48
東 北 お部屋に飾ろうガラス絵…倉本まり子…49
東 京 美的感性を養う造形表現…豊田ゆり子…50
山 梨 身近な自然とのかかわりの中で…佐藤 弘子…51
三 重 地域に広がる造形あそび…後藤やす子…52
滋 賀 わくわく・どきどき 感じよう…岩橋 直美…53
京 都 三匹のヤギのガラガラドン…中村 澄江…54
大 阪 いろいろな物を使って描いてみよう…松村 英子…55
和歌山 先生、あのね…前原千鶴子…56
中 国 幼児期における絵の具遊びの発展性…金藤佳千代…57
四 国 心を育てる造形活動…梶本 美鈴…58
九 州 お日様で変身!!…牟田 常文…59
授業研究 栃木県
小学校低学年 わたしの ふわちゃん、たびに でる !!…初谷 久子…60
小学校中学年 ものの名前のついた色…槙 誠子…62
小学校高学年 マイ 名画 ワールド…仲西 伸人…64
中学校 HEARTを動かす美術の授業をめざして…河上 博行…66
連載 Computer Now File 0018
デジタルカメラを利用したクレイアニメの制作…長谷川 幹…68
美術教育ルポ
英国の美術教育・感性紀行(後編)…宮脇 理+直江俊雄…70
連載 高校フォーラム 第19回
21世紀ルネサンス…中川 和佳…72
2003年美育文化総目次…73
美育ニュース…75
*Eメールトーク休みました。